講演者: 横田秀夫先生(理化学研究所・画像情報処理研究チーム・チームリーダー)
日 時: 2017年6月22日(木) 15:10~16:40(延長する場合があります)
場 所: 関西学院大学上ケ原キャンパス 文学部本館1号教室(文学部チャペル)
タイトル:画像処理による物体認識
要旨:
ディジタルカメラによる顔認識や医療診断、自動運転など幅広い分
れた対象物を認識し解析する画像処理技術が用いられています。近
ネット等で流通する大規模な画像データを用いて、機械学習により
抽出が可能となってきました。しかしながら、自然科学や医療など
細胞や組織などでは、その対象の多様性や取得可能なデータ数の制
械学習による画像処理が困難です。この問題に対処する方法として
果を模倣する画像処理システムsommelierを開発しました
与えた画像から抽出した正解領域に最も近い画像処理アルゴリズム
出すことが可能です。さらなる画像処理手法の開発には、画像認識
の脳内の働きを導入する必要があると考えています。心理学を専門
とのディスカッション、共同研究により、脳内の情報処理を反映し
ステムが開発できると期待しています。
報告:
本研究会では横田秀夫先生から、近年の画像処理・物体認識技術開発の目的や、ご自身の研究チームが開発されている最新技術、またそうした技術開発においてヒトの認識能力を理解することの重要性についてお話しいただいた。
過去の画像処理・物体認識技術では、「事前に何の特徴を抽出すればよいかわかっており、その特徴を自動的にコンピュータで取り出す」技術の開発が行われてきた。例えば、現在のデジタルカメラやスマートフォンには顔を自動認識するソフトウェアが搭載されているが、この技術では「目と口」というヒト顔の特徴をコンピュータが探し出している。
一方、近年のコンピュータ画像処理・物体認識技術が目指すのは、“Making the invisible visible (見えないものを見る)”技術の開発である。これはすなわち、事前に何を探せばよいかわかっていない状態で、その画像データから重要な情報を抽出してくる技術の開発である。その背景には、CTスキャンなど計測技術の発展により膨大なデータが取得できるようになった現状がある。医療や自然科学の場面では、昔はレントゲン撮影などで取得された2次元の画像データからヒトの目で対象物(例.腫瘍など)を探し出せばよかった。しかしCTスキャンやMRIなど3次元データが取得できる装置が開発され、さらにはコンピュータの処理速度向上によって膨大なデータを一度に計測できるようになった。このような現状では、到底ヒトの目のみに頼って対象物を探し出すことはできない。そこでコンピュータによる自動認識技術が必要となるが、医療現場や自然科学研究での対象物はその特定に必要な特徴が明らかでないことがほとんどである。こうした現場の要請から、近年の画像処理・物体認識技術開発では、探すべき対象の特徴が不明なままでより探し出しやすくするように画像処理をする技術、つまり「見えないものをより見えやすく」する技術の開発が行われている。
こうした技術の開発において大きな参考になるのは、ヒトが持つ認識能力である。例えば、ヒトは外部環境の中から簡単に物体を認識できる。そのメカニズムとしてItti & Kochらの顕著性モデルが提唱されているが、こうしたモデルをベースとした物体認識プログラムの開発を横田先生の研究チームは行われている。また、ヒトの認識能力を参考にするもう1つの大きな理由として、医療や自然科学の分野ではエキスパートが存在するということである。例えば腫瘍を見つけるときに医者がどのように探索しているのかを参考にすることによって、もしくは医者が腫瘍だと判断したものを教師データとして機械学習を用いることによって、未だ特徴情報が明らかでない中で対象物を探し出す物体認識技術を開発することが可能となる。またこうした技術の開発全般において重要なことは、画像処理・物体認識技術によって提出されたデータが、確かに対象物がどうかを最終的に判断するのはヒトだということであり、ヒトがより分かりやすい形でデータを提供するインターフェースの開発も大きなテーマとなっている。
このように、横田先生の研究チームでは、「見えないものを見える」ようにするご研究の中で、ヒトの認識を参考にした画像処理・物体認識処理技術の開発、そしてヒトがより判断しやすいインターフェースの開発を行われている。一見心理学とは遠い存在のように思われる工学研究であるが、その最先端ではヒトの認識メカニズムの理解が非常に重要視されており、我々心理学者が貢献できる可能性についても多くの示唆を得ることができた。
(出席:15名 文責:真田原行)