第19回CAPS研究会 7/13 福島宏器先生(関西大学 社会学部)・報告

講演者: 福島宏器先生(関西大学 社会学部)
日 時: 2017年7月13日(木) 15:10~16:40(延長する場合があります)
場 所: 関西学院大学上ケ原キャンパス (F号館 203教室)

タイトル:内受容感覚研究の展開
要旨:からだの中の内臓の活動や血圧・体温など,身体の生理的状態にかんする感覚を「内受容感覚」と呼びます。近年の心理科学/認知科学において,感情や身体感覚にまつわる多様な心理機能との関連で再注目されている感覚モダリティーといえます。これまでの内受容感覚の研究は,感覚の正確さや過敏性に関する「個人差」を切り口とした研究が多く進められてきました。そこでは意思決定の他,感情や自己認識についての寄与が検討されています。また,不安や摂食障害など,さまざまな臨床群における内受容感覚の変容についても多くの研究が進められています。一方で近年は,視聴覚や触覚などの外受容感覚と内受容感覚の相互作用や「感覚統合」に関する研究も進んでいます。この流れで発表者は,心拍や呼吸がリアルタイムで知覚や脳活動に及ぼす影響を調べています。今回の発表では,こうした内受容感覚研究の現状を概観し,発表者じしんのデータなども共有しつつ,応用的・理論的な問題点などを議論できればと思います。
◯参加に際し、文学部・総合心理科学科、文学研究科・総合心理科学専攻の方は、事前連絡の必要はありません。それ以外の方はお手数ですが、場所・時間変更などがあった場合の連絡のため<伏田>(k.fuseda[at]kwansei.ac.jp)までご一報いただけると幸いです(必須ではありません)。

報告:

本研究会では福島先生から内受容感覚(Interoception)に関する研究を広くご紹介いただき、また先生ご自身の未発表データを元に議論を行った。

内受容感覚とは身体内部の生理状態の知覚のことであり、顕著性ネットワークと呼ばれる島皮質・前部帯状回がその処理に関わっているという。特に島皮質は情報の統合を担っている脳部位であり、内受容感覚と記憶・文脈などを統合し、情動・意思決定・自己意識等に影響を及ぼしている可能性がある。実際に内受容感覚に敏感な人は情動を強く感じ(Herbert et al., 2007; Pollatos et al., 2007)、情動および身体への気付きに共通して活動する脳部位に島皮質が確認されている(Terasawa et al., 2013)。また、内受容感覚は共感とも関係している可能性があり(Lazar et al., 2005; Hou et al., 2017; Terasawa et al., 2014)、Fukushima et al. (2011)は他者の表情理解を行っている際は顔の形態に関する判断を行っている時よりも内受容感覚を反映する事象関連脳電位の心拍誘発電位が増大することを報告している。このように、内受容感覚の鋭敏さは感情経験などの大きさと正の関係にあることが明らかとなってきている。しかし、福島(2014)ではネガティブな感情では必ずしも正の関係ではなく、負の関係が見られることがありと指摘している。すなわち、内受容感覚の鋭敏さが不安やパニックの増加だけでなく、それらの低下と関係することが報告されている。そのため、内受容感覚の鋭敏さは身体の適切な制御(不安傾向の低下等)と、身体からの影響のされやすさ(不安の増加や強い感情体験等)の両者に関係し、何がこの関係性をわけているのか検討することが必要だと指摘された。

また内受容感覚の評価方法は心拍知覚に偏っており、他の評価手法や指標が必要であると指摘された。要旨にも記載されているように、福島先生は呼吸に着目し、新たな評価手法および指標の開発に挑んでいる。この点は本研究会のメイントピックスであり、非常に興味深い内容ではあったが、未発表データを含む発表のため、その詳細は参加者のみの特権とし、ここでの報告は控えさせて頂く。

測定時の苦労などもお話いただき、非常に有益な発表であった。また、短い時間ではあったが学生と教員含め方法論や今後の課題などに関して活発な議論が行われた。

参加者18名