講演者: 橋彌和秀先生(九州大学大学院人間環境学研究院)
日 時: 2017年7月3日(月) 15:10~16:40(延長する場合があります)
場 所: 関西学院大学上ケ原キャンパス F号館304号教室
タイトル:共感-マキャベリ的知性-心の理論
要旨:こころは、外部情報を統合的に処理する内的なシステムであり、
な直接観察可能な表現型と同様に、進化の産物だ。
を手がかりとして、自他の認識論的状態を分離する「自他を『
と対置可能な、「自他が『まざる』心的システム」
た上で、両者の異なる淘汰圧の均衡点としての「こころ」
リ的知性」、”Theory of Mind”概念等の歴史的文脈も含めて議論したい。その上で「わ
かつ」「まざる」
達早期の自発的表情模倣とその定型/非定型発達」・「知覚、
への関心と指さしの発達」「偽善的な他者回避の発達」「
紹介させていただきたい。
◯参加に際し、文学部・総合心理科学科、文学研究科・総合心理科学専攻の方は、事前連絡の必要はありません。それ以外の方はお手数ですが、場所・時間変更などがあった場合の連絡のため<植田>(mizu.ueda[at]kwansei.ac.jp)までご一報いただけると幸いです(必須ではありません)。
報告:
ヒトを含め社会性を持つ種は、個体利益の最大化と社会集団の維持という異なる淘汰圧の均衡上に生きている。こころもまた進化の産物であり、そこには上記の淘汰圧を背景としたふたつの内的システムが併存しているのではないかという仮説を提示した。一方は、集団内での競合的関係を処理し、個体利益の最大化を目指す「自他をわかつ」システムであり、戦略的に相手を騙す・出し抜くといったマキャベリ的知性がこれに当たる。もう一方は、内集団における社会関係の形成・維持を目指す「自他がまざる」システムであり、これが「共感」の基礎システムであると考えられる。こころの理論(ToM)は本来、誤信念に代表されるようなメタ認知に関わるものだけではなく、他者が「こころ」を持っているという信念そのものを指すが、これは、両者のシステムを繋ぐ横串のように機能しているのではないだろうか。
「わかつ/まざる」システムに関する具体的な研究としてたとえば、乳幼児を対象に他者の知識・知覚経験に基づいた教示行動や関心を検討した。具体的には、1歳児と実験者がボールで遊ぶセッションと、実験者の退室後に別のボールを使って子どもが一人で遊ぶセッションを設け、その後、再入室し子どもと向かい合った実験者の背後に、上記2種類のボールを呈示した。その結果、子どもは実験者の経験していないボールを指差すことが多く、さらに、実験者の代わりに新奇な第三者の背後にボールが呈示された場合は、そのような選好が見られないことが示された。また、映像への視線追跡を行った研究では、互いに反対方向を見ている二人の女性のうち一人(行為者)が、その後視線方向を変えて玩具を見るといった映像において、1歳6ヵ月児は反対側を向いたままであるもう一方の女性(パートナー)に視線を向けやすいことが示された。このような結果は、予め二人が互いの顔を見ている映像では示されないため、行為者が玩具を見たことをパートナーが知らないという状況において、パートナーへの関心が示されたと考えられる。このような結果から、ヒトには自他の知識状態を等質化しようとする傾向があり、これが共感と結びついているのではないかと考えられる。
本研究会ではこのように、前述の二つの心的システムに関して、主に乳幼児を対象とした研究を多数ご発表いただいた。会場からは、「まざる」システムにおける自他分離の認知の必要性についてをはじめ、多くの質問が見られ、活発な意見交換が行われた。
(文責:植田瑞穂)