CAPS講演会 3/6 山崎勝之先生(鳴門教育大学大学院)・報告

 

日時:3月6日(火) 15:30~17:00(延長する場合があります)
会場:関西学院大学上ケ原キャンパス (F号館 102教室)
講演者:山崎勝之先生(鳴門教育大学大学院・教授)

タイトル:心理学者の「しあわせ」とは?― 往還する基礎と応用の研究軌跡 ―

要旨:「心理学者のしあわせって、なに?」 ― 答えは、人それぞれ、に決まっている。そう一笑したいのだが、どこか落ちつかない。それでは、私はどうなのか?なぜ、研究をおもしろいと感じるのか、また、おもしろいと感じる自分は何なのか。おもしろいと感じる研究に行き着くには、考えて考え抜く苦悶のプロセスがある。苦悶の末の研究は、どれも独創性が際立つ。健康や適応を守るパーソナリティの基礎研究、非意識と意識の連動を基盤とする予防教育の介入研究、ポジティブ感情の諸側面と短期予測的研究の因果推定、そして、世に常識と言われるセルフ・エスティームの概念と測定法の刷新。どれもが手に汗握る目下の研究だ。それで私は、しあわせなのか?専門領域と興味が違う皆さんに決めていただく講演になるのだろうか。

報告:本講演では,パーソナリティやポジティブ感情に関する基礎研究や小中学校を対象とした予防教育に関する応用研究の成果,そして,現在進行中である,セルフ・エスティームの概念や測定法に関する抜本的な見直しとその研究成果をご紹介いただいた。

はじめに,山崎先生がこれまでに取り組んできた,心身の健康に関連するタイプAや攻撃性,ポジティブ感情に関する基礎研究の知見をご紹介いただいた。これらの研究領域では,山崎先生が行ってきた研究を含め,これまでに多くの基礎的検討が行われており,その研究成果は心身の健康を促進する介入プログラムの開発などにも応用されている。山崎先生は,学校予防教育プログラム (TOP SELF: Trial Of Prevention School Education for Life and Friendship) を開発・実践し,「自律性の育成」と「対人関係性の育成」を大目標としている。そのベースには,自己信頼心 (自信) の育成,感情の理解と対処の育成,向社会性の育成,ソーシャル・スキルの育成の4つの目標を据えている。そして,このプログラムは,小3~中1での通年実施を目指し,学校のニーズに合わせたプログラムや教材も作成している。また,これらのプログラムには,子どもの興味と関与度を高める様々な工夫が凝らされており,その様子を撮影した動画の視聴も行った。

そして,セルフ・エスティームの概念の再考・刷新は,山崎先生の喫緊の研究課題である。従来のセルフ・エスティームに関する研究は,例えば,教育や臨床場面で多く行われており,心身の健康を促進する上で,重要な心理変数であるとされてきた。その一方で,後続の研究では,その研究結果は再現できない・一貫しないことが指摘されていた。山崎先生は,この背景に,セルフ・エスティームの概念の定義や測定方法の曖昧さが関与していると考え,概念や測定方法の再考・刷新を行っている。Rosenberg (1965) の自尊感情尺度は,世界的に広く使用されている,セルフ・エスティームを測定する尺度である。山崎先生は,この尺度では,Rosenbergが想定したセルフ・エスティームを適切に捉えられていないと指摘し,その概念の測定方法のズレが,再現性の低さに繋がっていることを示唆している。山崎先生は,セルフ・エスティームの非意識性を強調し,自律的自尊感情・潜在連合テストを開発している。前述した学校予防教育プログラム (TOP SELF) の自己信頼心 (自信) の育成は,まさにこの自律的なセルフ・エスティームの育成を目指しており,現在,さらに効果と実施容易性の高いプログラムへと改定されていることも報告された。またこのテストは,教育や臨床場面での簡易な実施を目指して紙筆版として開発され,タブレット版の開発も現在行われている。山崎先生は,新たなセルフ・エスティームの概念や測定法を駆使した教育や研究を行うことの重要性を主張した。

こうして本講演では,山崎先生がこれまでに行ってきた研究や平行して進行中の研究が多数紹介された。なかでも,セルフ・エスティームや学校予防教育プログラム (TOP SELF) の最新の研究成果が強調された。質疑応答の際には,フロアから自律的セルフ・エスティーム・潜在連合テストの詳細に関する質問やその応用可能性,さらには,開発された予防教育の今後の展開などについて活発な議論が交わされ,盛会にて終了した。

(文責:小國龍治)
参加者26名