タイトル:空間的学習と非空間的学習の理論的接点について
要旨:動物が広く共有する学習・行動の原理について、種々の迷路における空間学習場面で得られてきた知見と、実験箱などの空間的要素の制限された場面で得られてきた知見について、その理論的接点、および統一的理解を模索する。具体的には、話題提供者が近年行ってきた、空間学習における刺激間競合、行動の目標指向性、さらに空間・非空間課題に関与する複数記憶システムの対応関係に関する研究を紹介する。
◯参加に際し、文学部・総合心理科学、文学研究科・総合心理科学
それ以外の方は、祝日ということもありますので、お手数ですが高橋(fjq61112[at]kwanse
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報告:
空間学習において空間内の幾何学情報がどのような役割を担っているのかに焦点を当て、連合学習理論の適用可能性についてご講演いただいた。動物を用いた実験課題、特にラットやマウスといった齧歯類を用いた学習課題は、スキナー箱のような特殊な装置内で実施されることが多い。このような環境下で得られた実験結果から、連合学習理論のような極めて頑健な理論体系が構築されてきた。しかしながら、空間学習のような課題においては、空間的に限定された環境下で得られた結果を一般化することは難しい。この点について、神前先生は空間学習場面に対して連合学習理論に基づいた実験計画を立案・遂行されており、連合学習理論を空間学習場面にも拡張するような試みをなさっていた。
多数の研究をご紹介いただいたが、報告者にとって特に印象に残っているのは、ラットが空間学習をする際に、装置の幾何学情報間に隠蔽が生じうるのかについて菱形迷路装置を用いて検討した実験であった。神前先生は幾何学情報の明瞭度に着目し装置の形状を変更されていた。このときの明瞭度とは、まさにレスコーラ=ワーグナーモデルにおけるCSの明瞭度であり、菱形装置の内壁角度を変化させた場合に、どの程度の条件反応が生じるのかを検討することでその強度を確認することができる。報告者にとって、理論体系に裏付けされた刺激強度の設定が印象的であった。また、神前先生は特に、知覚レベルで生じていることと、学習レベルで生じていることを区別することの重要性を主張されており、この点についても報告者は自身の研究においても考慮すべき点であると感じた。隠蔽以外にも、空間長の弁別に関する非対称性や般化などについて、ご自身の研究成果を中心にご講演いただいた。空間学習を研究のテーマとするもの以外にも、連合学習理論の可能性について気付かされた研究会であった。
研究会後にも参加者から多くの質問がなされ、活発な討論がなされており、盛況な研究会であった。
文責:高橋良幸
参加者14名