日時:2月22日(木) 15:00~16:30(延長する場合があります)
会場:関西学院大学上ケ原キャンパス F号館304号教室
講演者:松田いづみ(科学警察研究所)
タイトル:隠すことの心理生理学
要旨:
ウソを見破ろうとする試みは,古くから行われてきました。ウソをついているかもしれない人の言葉は当てになりません。そのため,生理や行動の側面が注目され,その歴史は紀元前にさかのぼります。生理指標から心を探る心理生理学の発端は,ウソ発見にあるのかもしれません。しかし,この長い歴史にもかかわらず,心理学的に妥当で精度の高いウソ発見法は,いまだ見つかっていません。
そこで,日本の警察では,「ウソではなく,事件事実を知っているかを調べる」と発想を切りかえて検査を行っています。これは隠匿情報検査とよばれ,被疑者が知っていることを隠している可能性があるときに,本人の同意のもと実施します。そして,自律神経系指標から,被疑者が事件事実を知っているかどうかを推定します。
隠匿情報検査は捜査で広く使われていますが,心理生理学的な研究にも利用できます。研究場面では,自律神経系指標のほかに,中枢神経系指標も測定します。これらの生理指標は,知っていることを隠しているときの心の動きを,刻々とうつしだします。隠すときの心理プロセスは,言葉や行動からは研究しにくいですが,生理反応を読み解くことで明らかにできるかもしれません。本発表では,隠匿情報検査における中枢・自律神経系反応から,「隠すときの心」の一端を探る試みを紹介します。
◯参加に際し、文学部・総合心理科学、文学研究科・総合心理科学専攻の方の事前連絡は必要ありません。
それ以外の方は、お手数ですが伏田(k.fuseda@kwansei.ac.jp)までご連絡を下さい。
報告:
研究会冒頭、松田先生からフロアに対して「隠匿情報検査を知っていますか?」「隠匿情報検査をウソ発見ではないと知っていますか?」「隠匿情報検査は心理学的に面白いと思いますか?」というユニークな質問が投げかけられた。これには、松田先生の隠匿情報検査の心理学的面白さ、研究発展の可能性を伝えたいという気持ちが込められており、その想いを直球で投げかけてのスタートとなった。
犯罪捜査において用いられている科学技術はDNA解析などが挙げられる、現場にたまたまそのDNA情報が残されていた可能性は拭いきれず、事件と被疑者を直接的に結びつける証拠にはならないという。そこで、松田先生は事件と被疑者を結びつけるのに、隠匿情報検査(CIT)で得られる生理反応が有用であると主張された。CITとは日本の犯罪捜査でも実際に用いられている記憶検出技術であり、犯人しか知り得ない認識を被検査者が有しているか否かを生理反応から判断する手法である。
CITは日本の犯罪捜査で導入されており、年間約5000件が実施されている。しかしながら、松田先生はCITで生じる生理反応がどのような心理プロセスを反映しているのかが未だに不明確であると指摘し、それに関するいくつかの実験をご紹介いただいた。それらの実験結果は、CITで得られる生理反応の中で脳波は「知っていることを隠した時」の反応を反映している可能性を示唆するものであった。特に隠蔽時には右前頭回が電源となっている事象関連脳電位の徐波成分が増大し、これは隠蔽時の抑制と回避動機づけを反映していると指摘された。他の研究から認知的負荷が高くなると徐波が増大することや、右脳が回避動機づけと関連していることがわかっており、隠蔽時の徐波の増大は「しっていることを隠した時」の認知的負荷を反映していると結論づけられた。
研究会では多くの議論が行われ、中でも「米国はCITではなくCQTという手法を採用しているのに、なぜ日本はCITを採用しているのか」「現場では得られた生理反応を目視で判定するので、判定基準の食い違いはどのくらいあるのか?」などの議論は熱を帯び,盛会にて終了した。
(文責:伏田幸平)
参加者23名