第2回CAPS研究会
講演者: 浅野良輔先生 (浜松医科大学子どものこころの発達研究センター)
日 時: 2015年11月30日(月) 15:30~17:30 (終了時間は目安です)
場 所: 関西学院大学上ケ原キャンパス F号館305号教室
タイトル: 居住地の流動性は人を成長させるか ―幸せに関する動機づけからの検討―
要旨:
個人が成長してよりよい成果を得るためには、うまく自己制御をすることが重要となります。これまでの研究は、居住地の流動性の高さをはじめとしたストレスフルな状況に陥った人たちは、自我を消耗するために自己制御できなくなるものの、目の前にある課題への動機づけが高い場合には、こうした自己制御の失敗が起きにくいことを示しています。そこで本発表では、居住地の流動性が自己制御に与えるネガティブな影響をいかにして和らげるかを明らかにするため、喜び追求、くつろぎ追求、幸福追求という幸せに関する3つの動機づけの役割に焦点を当てます。はじめに、幸せに関する動機づけをとらえるための尺度を作成するとともに、その構成概念妥当性を確かめます。つぎに、居住地の流動性と幸せに関する動機づけが、未来志向の時間的展望に与える影響、ならびに促進焦点や予防焦点からなる2つの自己制御システムに与える影響を検討します。幸福度研究の文脈で注目されている動機づけが、たとえストレスフルな状況にさらされても、自分を見失わず成長していくための鍵となれるかどうかについて、みなさまと考えていければ幸いです。
◎研究会の参加に際し、文学部・総合心理科学科、文学研究科・総合心理科学専攻の方は事前連絡の必要はありません。それ以外の方は、お手数ですが事前に山岸厚仁(a.yamagishi@kwansei.ac.jp)までご連絡ください。
◎研究会後には懇親会を予定しております。参加に際し、
報告:
これまでの幸福感研究では,現時点での主観的感情や幸福度といった結果に焦点を当てる快楽主義と,自己実現や成長,人生の意味といった幸福度を高めるためのプロセスに焦点を当てる幸福主義という異なる立場から研究が進められてきた.浅野先生は快楽主義・幸福主義の両者で扱われている概念が一致せず,分析カテゴリや測定レベルでも異なるという問題をご指摘された.そして,個人の日常活動における動機づけを測定するHedonic and Eudaimonic Motives for Activities (HEMA) 尺度を取り上げ,日本版HEMA尺度の開発とそれを用いた研究についてご紹介頂いた.
HEMA尺度は,自分にとって心地よい状態を得ようとする動機である快楽追求と,自身の能力を最大限発揮しようとする動機である幸福追求という二つの側面から幸せに関する動機づけを測定する.しかし, 浅野先生はHEMA尺度に対して主成分分析のみが行われている点と,ポジティブ感情が覚醒度によって左右される点に着目され,日本版HEMA尺度を開発しその因子構造を多面的に検討された.その結果,幸せに関する動機づけとして1) 喜び追求,2) くつろぎ追求,3) 幸福追求という3つの因子が想定されることを示された.さらに,新たに作成した日本版HEMA尺度が高い信頼性を持ち,若者に対する構成概念妥当性が担保されていることを示された.また,日本版HEMA尺度を用いた社会生態学的なアプローチによる研究として,居住地の流動性と幸せに関する動機づけが未来志向と自己制御システムに与える影響について検討した研究をご紹介頂いた.
今後の展望として,日本版HEMA尺度を肝に,人口移動といったマクロレベルや活動動機といったマイクロレベルの観点から自己制御の社会生態学的モデルを探求していきたいと述べられた.質疑応答では研究方法の妥当性や,幸福の定義について活発な意見交換がなされた.
参加者25名
(文責:山岸厚仁)