第33回CAPS研究会 1/30 後藤和宏 先生(相模女子大学)・報告

講演者:後藤 和宏 先生(相模女子大学)

日 時: 2019年1月30日(水) 15:00~16:30(延長する可能性があります)
場 所: 関西学院大学 ハミル館ホール

タイトル: 比較認知:心理学と生物学が出会うところ

要旨:動物の認知研究のルーツは、経験による行動変容に重きをおく比較心理学と、生得的な行動の種間多様性に重きをおく動物行動学である。現在では、Animal Cognitionという学術雑誌もあるように、学際的研究が活発な分野であり、動物からヒトまで、分子から行動、そして生態までを生物学の言葉で統一的に捉えることの重要性が認識されるようになってきた。この講演では、心理学の学位を取得した後、生物学の訓練を受けてきた私が、その経験を振り返りつつ、これまでに取り組んできた鳥類、霊長類、げっ歯類を対象とした研究のうち、ゲシュタルト知覚に関する研究、および視覚探索に関する研究を紹介し、今後の研究の方向性について論じたい。

◯参加に際し、文学部・総合心理科学、文学研究科・総合心理科学専攻の方の事前連絡は必要ありません。
それ以外の方は、教室変更時などのお知らせのため、高橋(fjq61112[at]kwansei.ac.jp)まで、ご一報いただきますと幸いです(必須ではありません)。

報告:
『比較認知:心理学と生物学が出会うところ』という演題で後藤先生のこれまでの研究成果、特に形態の認識に関する比較研究と捕食者の認知機構に関する研究についてご講演いただいた。後藤先生は複数種の動物を用いて実験をなさっており、ヒトとは違った解決方略をとりそうな課題に対して複数種の動物がどのような解決方略をとっているのか比較し、その認知の仕組みに迫っておられた。
ハトはヒトと比較して総視野は広いが両眼視野は狭い。また、ヒトの眼は前方眼で前方視のための中心窩が1つしかないが、ハトの眼は、前方視のための中心窩と側方視のための中心窩の2つをもっている。脳の構造に注目すると、鳥類の脳にはヒトの脳のようなコラム構造がなく、神経核が層構造をなしている。視覚情報を処理する機構に関するこれらの違いは、形態の認識におけるハトとヒトの違いをもたらすことが考えられる。実際、ハトでは写真を用いた自然概念の弁別課題において、刺激にモザイク処理やスクランブリング処理をかけても弁別が維持されるという報告から、後藤先生はヒトとハトとでは形態認識において用いられる手がかりに違いがあり、それらが全体と部分の手がかりの相対的な優先順位にあることを指摘されていた。
さらに、Navon刺激を用いた先行研究では、ヒトでは文字の認識は部分的な情報よりも全体的な情報の方が早く処理されるが、ハトを含むヒト以外の動物ではむしろ部分的な情報が早く処理されることが知られている。この点に関して、後藤先生は刺激の構成要素の数や要素密度などのパラメータを操作することで、全体と部分の認識の優先性は影響されてしまうため、全体・部分の認識の種間比較には適した刺激ではないのではないかと考えられていた。そこで、Navon刺激に換わり、形態の認識についてゲシュタルト心理学的なアプローチによる研究に取り組まれていた。チンパンジーはヒトと同様にゲシュタルトを知覚するが、ハトやハシブトカラスなどの鳥類はゲシュタルトを知覚しないという実験結果をご紹介いただいた。ゲシュタルト知覚に関する霊長類と鳥類の違いは、複数の実験課題によって確かめられたものであり、先述した哺乳類型と鳥類型の視覚情報処理機構の違いによるものだと考えられた。しかし、最近、同じ実験課題をげっ歯類のマウスで実施したところ、マウスはゲシュタルトを知覚しないことが明らかになり、霊長類とそれ以外の動物の形態の認知に関する種差がなぜ生じるかはさらなる研究が必要であることを後藤先生は指摘されていた。
さらに、捕食者の認知機構について、実際の遺伝的アルゴリズムをもとにバーチャル交配した蛾を刺激に用いた研究をご紹介いただいた。蛾をバーチャル交配させ、木の幹に見立てたディスプレイ上に呈示した蛾をアオカケスが探索し、つつかせるという自然の捕食場面を模したオペラント学習をさせた。このときにカケスが見落とした蛾同士を用いてバーチャル交配を繰り返し、次世代の蛾を作り、カケスに捕食させるということを繰り返すと蛾の翅の表現型に多様性が生じることが報告されている。後藤先生は、このとき捕食者であるカケスカケスが蛾の探索像を有しているのかについて検討し、系列プライミングと連合プライミングのプライミング手続きにより異なるメカニズムがはたらいていることを示していらっしゃった。
研究会では想定よりも多くの方にご参加いただき、活発な議論が展開されていた。また、講演では後藤先生のキャリアパスとともに研究成果を報告していただけたので、若手の参加者たちにとって大変参考になった。
(文責:高橋良幸)

参加者:17名